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ダブルトップギター、ラティスギターの考察を通じ、ギターに必要な音量に関して考える。

クラシックギターを弾く人にとって、「音量」というのは悩ましい問題で、さらにそれはギターの選択にも関わる、避けて通れない問題です。今日は、ダブルトップやラティスと言った新型ギターの考察を通じて、クラシックギターに必要な音量について考えてみたいと思います。

ダブルトップギターを初めて触った
先日、用事があって外出したついでに島村楽器に行く機会を得、そこでアストリアス ダブルトップを触らせてもらいました。これが、確かに鳴るんです。パーンとはじけるような感じ。バーンでもドーンでもなく、パーンね。ダブルトップに関しては上記アストリアスのサイトを参照いただければと思います。弦の張力を支える強度と、表面板の振動という相反する課題に、ハニカム構造と言う新しい技術で応えた意欲作です。ハニカム構造を採用することで、強度を保ったまま表面板を軽くすることができ、結果表面板が振動し音が大きくなる、という原理です。

doubletoprosec_4.jpg
(ASTRIUS 公式サイトより画像引用)

ダブルトップといえば、ミューラー
ダブルトップギターと言えば、名前が上がるのはダマンとミューラーです。ダマンがダブルトップの開発者。そのダマンと並んで称されるのがミューラーです。アストリアス ダブルトップを触ってから半月も経たないうちに、今度はミューラーのダブルトップを触る機会に恵まれました。福田進一先生がマスタークラスで使われていたのが、会場であった猪居ギター教室 猪居謙先生のミューラーでした。初めてのミューラーの感想は・・。はっきりいいましょう。めちゃくちゃ鳴る!鳴りまくる!鳴りすぎると言ってもいいかもしれない。。パーンでもバーンでもなく、ドッカーンに近い感じ。音を出したいときには重宝するけれども、音を出したくないときには向かないなぁ。

音の大小に関して私が目安にしているのは、「自然な状態、緊張を伴わない撥音をmfメゾフォルテとする」と言うものです。そこから大きくするにも小さくするにも、意図と緊張を伴って撥音することで調整するわけです。ミュラーだと、その目安が通用しないと思いました。普通に弾いてもffフォルテシモくらい出る。出てしまう。普通のシングルトップのギターになれている人は、ダブルトップの扱い方を別に練習する必要があると感じました。


新型ギターの双璧、ラティス構造ギター
ダブルトップと並び称されるクラシックギターの新構造に、ラティス構造があります。ラティス(lattice)とは、格子のこと。通常クラシックギターでは、表面板の裏に力木と言う木材を配置し、強度を確保します。この力木を「ラティス(格子)」状にし、強度を重視したものをこう呼びます。これにより表面板を薄く軽くすることができ、大きな音が期待できるのですね。代表的な制作家はスモールマンです。私はラティス構造のギターを弾いたことはありません。聞いた感想で言うと、「よく鳴るなぁ」という感じ(安直)。自分で弾いてみるとまた感想も変わるのでしょうか。

新型ギターの欠点は
ここまで、ダブルトップやラティスという新構造のクラシックギターを紹介してきました。大きな音が見込める、という長所、小さな音は出しにくいかも、という短所を上げました。しかし、実はもう一つ大きな課題があります。それは、「新しい」構造であるということそのもの。新しいと言うことは、長い時間をかけて積み重ねてきた実績がまだない、ということ。別の言い方をすれば、経年変化/耐久性に関する歴史的評価が定まっていない、ということです。長年演奏に使い続けた場合、温度変化を重ねた場合・・・。新構造のギターを演奏し続けた場合、音が熟成されいい音になっていくのか、それともよくない影響が出てしまうのか。音の将来が読めない、と言うことはそのギターの将来の価値もわからない、ということです。特に、ここで紹介したような構造のギターの場合、音が鳴りやすいように表面版を薄くしているので、取り扱いが難しいことは間違いないでしょう。いま、ラミレスやハウザー、という名工のギターは価格が高騰しています。これに対し、ミュラーやスモールマンが将来どのような値付けになるか、というのは、慎重に検討する必要があります。もっとも、今の感じではますます上がっていきそうですが。

「大きな音」=「豊かなダイナミクス」ではない
「大きな音」という意味では、新型ギターは魅力的だと言わざるをえません。ただし、必ずしも「大きな音」=「豊かなダイナミクス」ではないところに注意が必要です。自分の右指のパワーと出力される音量との関係に注意深く耳を傾けなければなりません。例えば、下記の図のように右手の力(インプット)とギターの音量(出力)をグラフにすることを考えます。
右手の力と音量の関係


理想的なギターの持つ出力特性を黒色とした場合、その持ち替えとして音量の大きなギターというのは理想的には赤色のように、線形に出力が大きくなるものでなくてはなりません。気をつけなければならないのは、青色のような特性を持つギター。これでは、大きな音は確かに出ます。しかし、小さな力でも大きな音が出るため、結果としてダイナミクスの範囲を広げるのが難しい楽器になってしまう可能性があるのです。これは別に新型ギターに限った話ではありません。大きな音量だけを追い求め、ダイナミクスを失い単調な演奏にならないよう、気をつけてギターを選びましょう。

結局新型ギターはお勧めなのか?
では結局、ダブルトップやラティスと言った新型ギターはお勧めなのか?この話は、結局TPO(時、場所、場合)に寄る、という身も蓋もない話に行きつきます。大きなコンサートホールでの演奏機会が多い人は、積極的に新型ギターを使うのもよいでしょう。耐久性に問題があるならば、ギターを「育てる」のではなく、積極的に「乗り換えて」行くのも選択肢に入るはずです。聴衆が100人規模かそれ以下の演奏会であれば、無理に新型ギターの音量に頼らなくても魅力的な演奏ができると考えます。難しいのは、普段は後者しか演奏しないけれども、コンクールの際など限られた条件ではコンサートホールで演奏する、という人がどうするか、だと思います(わたしのことだ)。これは、金銭的余裕があれば両方持っておければ一番よいでしょう。。。喫茶店とか、人の往来のあるイベントとか、屋外とか、「音量が最優先」という環境はコンクール以外にも意外と多いと思います。

それでもどちらか片方勧めろ、と言われたら・・
これはあくまで現状での個人的見解ですが、新型ではない通常のギターを勧めます。理由はいろいろありますが、大きくは4点。1点は、ギターって結局50人程度を相手とするサロンコンサートの形式が、一番ギターの魅力を伝えられるのでは、ということによります。このためには、従来型で音量は十分で、むしろ表現力を追求できるのではないかと思います。まぁこれは、ギターがあって会場が決まるのか、会場に合わせてギターを選ぶのか、という議論の論点先取りな感じはありますが。

2点目は、従来ギターの方が右手と耳の訓練になるのでは、ということです。先ほども述べた、右手の力と音量の関係。これに敏感になるためには、新構造ギターは向かないのでは、ということです。

3点目は、大きな音量ってそこまで魅力的か?というところです。良い演奏だと、音量に対して耳が慣れていくので、必要最低限の音量があれば、観客側が集中力を持って聞いてくれると信じています。少なくとも、自分が観客である場合はそう。大きい音は、最初はそれだけで「おおっ!」と思いますが、それって最初だけなんですよね。もちろん、観客に集中力を持ってもらえるような「いい演奏」をすることが大前提ですけどね。

最後に4点目。私は音楽や芸術のよさは、定量化できないところにあるのではないか、とも思っています(よければ関連記事:「聞こえる音」が本当に全てか 人間の認識能力に関して考える をご拝読いただけると幸いです)。長い期間をかけて評価されてきた、まさに「クラシック」なものの良さを、単純な音量で評価することに怖さがあります。もちろん、これは単に「まだ怖い」と言う私個人の正直な思いなだけで、新構造のギターを否定する目的ではありません。もしかすると、新構造のギターの方が人の琴線に触れる音である可能性だってありますから。


色々言いましたが、お金がありゃあ両方欲しいし、いろんなギター試したいですね。演奏フォームと音量の関係に関しては、下記に記事でも言及していますのでご参照いただければと思います。

関連記事: クラシックギターのための、腕・手の脱力方法 https://asao-guitar.com/blog-entry-271.html

関連記事: タレガのフォームとサロンの時代 https://asao-guitar.com/blog-entry-274.html


関連記事: 「聞こえる音」が本当に全てか 人間の認識能力に関して考える https://asao-guitar.com/blog-entry-303.html
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