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CDレビュー "Ricordi/ イタリアの思い出に寄せる2つの小品" (猪居謙):ギターの良さを最大限に引き出した名盤

以前に発売予定を紹介した猪居謙さんの2ndアルバム Ricordi/ イタリアの思い出に寄せる2つの小品 のレビュー記事です。心にないおべっかを使うのが苦手な(嫌いな)私なりの、可能な限りの賛辞となっています。


CDと言う購入/視聴方法が過去になりつつもあるこのご時世ですが、敢えていいます、これは、紛うことなき名盤です!私は、おだてたりおべっかを使うのはあまり得意ではないため、いいなと思わなかったときは褒めません。もちろん、棘をたてたいわけではないので敢えて悪くは言いませんし、なるべく好きなところを探して褒めるようにはします。けどね、好きじゃないものを褒めるのって、結局自分に嘘をついているだけでなく、相手にも失礼だと思うんですよね。

安易な同情は相手の存在を否定する行為だと思っています。「うんうん、わかるわかる」「凄いね」。本心から発せられない迎合よりも、本音ベースの否定のほうが、相手の存在を認めているのではないでしょうか。

さて、本論。

猪居謙氏の Ricordi は、まさに名盤
演奏、選曲、録音状態、どれを取っても非のつけようがない。テデスコ: 悪魔の奇想曲やアサド: カリオカ幻想曲と言った難曲を圧倒的テクニックで料理し、さらに西森久恭氏の書き下ろし「イタリアの思い出に寄せる2つの小品」も凄まじく魅力的。ここまでくれば、ウォルトン: 5つのバガテルは、聞く前から優れているに決まっている。もう聞かなくてもいいんじゃないか(もちろん聞きました)。全収録曲に関しては、先日のこちらの紹介記事をご覧ください。発売からこの3ヶ月間、文句なしのあしゃおヘビロテ大賞です。通勤中とか、何かない限りは常にこのCDばかり聞いてますね。




カリオカ幻想曲
アサド兄弟の兄、セルジオ・アサド作曲。アサドはピアソラ作品の編曲をしていたり、タンゴ組曲の献呈を受けたりと超絶技巧のイメージが強い。そして実際そうなんですけれど、この曲は超絶技巧部分が超絶格好いい(語彙力)。猪居謙氏の演奏はテクニックだけが浮き彫りになるのではなく、きちんと格好いいフレーズをテクニカルにまとまとめて魅力的なフレーズとして提示できています。猪居謙の最大の魅力が十二分に発揮された曲だと思います。

例えば私の大好きな大萩康司さん。彼は、楽譜を徹底的に咀嚼し消化し、その結果の「音楽的魅力」だけを自分のものとして提示されるんですよ。もちろん、そんな彼の演奏は大好き。けれども、あそこまでいくと、あまりにも自由すぎて「ギターで演奏する必然性」すらも解体されているように思うこともあります。サナギを経て完全変態した成虫が、その風貌から幼虫の面影がなくなってしまうかのように。

猪居謙氏の提示する音楽は、本来の音楽が持つ形態は失わず、それをギターという得物を持って再構築したような印象を受けます。大萩氏はギターの限界を突破して「大萩康司」と「音楽」だけを残しているのに対し、猪居氏のそれは、あくまでギターから世界が切り開らかれていくような。言葉を選ばずに言うと、ギリギリのところで「ギターの匂い」が抜けきらない。でもこれは、ギタリストの端くれとしての私の、最大級にして最大限の褒め言葉なんです。

イタリアに寄せる2つの小品
猪居氏がイタリアのキジーナ音楽院のコースで知り合い意気投合したという大阪出身の作曲家 西森久恭による書き下ろし作品。これも曲の良さをギターらしさが引きたてている。西森氏自身はギターを演奏されないと言うことで、結果として難易度が高くなったのでしょう。猪居謙氏によると、歴代屈指となるレベルの難易度だったらしいです。曰く、「アサドはギタリストの曲だから、難しいけど頑張れば弾けるようにできている。西森さんのは絶対無理だから、楽譜に手を加える諦めがつく」。と言う訳で、レコーディング時も含めかなりやり取りや加筆修正を繰り返されたそうです。その成果が結実していますね。

これも、ギターで世界を開闢する彼だからなし得た、絶妙なバランスのように思えます。仮に大萩さんがこの曲を最初に録音したならば、残る楽譜も曲も、全く違ったものになったのではないでしょうか。その意味でも、猪居謙氏がこの曲を委嘱し、2人で取り組んだことは素晴らしい実を結んだと言えます。もしかすると、猪居謙さん以上に「ギターのための曲」を監修する上で適任な人はいないのかもしれません。

録音状態もよい
本盤は、以前に妹の猪居亜美さんもCDを発売されているフォンテック社。音質も申し分ありません。使用楽器はアントニウス・ミュラーのダブルトップ(2010年)、場所は相模湖交流センターとのこと。ダブルトップはマイクに乗りにくい、と言う評価を耳にすることもありますが、本CDでは特に気になりませんね。

あえて言うならカヴァティーナ・・
この圧倒的曲目と演奏たち。これなら、1曲だけカヴァティーナ(S.マイヤーズ)のような曲を放り込まなくてもよかったのでは、と思います。この種の曲を入れなくても、十分過ぎるほどアルバムとして成立する。と言うよりも、その時間と容量でもっと別な曲を聞きたかった、、と言うのが本音です。同じカヴティーナなら、タンスマン入れてほしかった。。曲目が濃くなりすぎて胸焼けが起きることを危惧されたのかもしれませんが、そんな心配は全く不要だった。むしろ、フルコースの中にお茶漬けを入れないで、という感じ。。

※マイヤーズのカヴァティーナは名曲ですし、好きな曲の1つです。自分でも演奏しますし。謙さんの演奏ももちろん素晴らしい。貶める意図はありません。ただ単に、場違いかな、と言う例えを探していたらこうなってしまいました。いや、お茶漬け美味しいし大好きだし!


ここでは特に、大曲2曲を中心にCDおよび猪居謙氏の魅力をお伝えしました。百聞は一見にしかず、ぜひ1度聞いていただきたい、自信を持ってお勧めできる名盤です。

実は4年前に、その名も「猪居謙」と言うタイトルの記事で、彼とそのデビューアルバムに関する記事を掲載しました。そのときには、「私がクラシックギタリストとしての言葉を持つ前から近くで圧倒されていた存在のため、彼を語る言葉をいまだ持ってない」としか表現できていなかったのです。何だかんだギターを続け、ブログを続け、音楽を聞き続けているうちに、彼を語る言葉をようやく見つけられたようで、自分としても嬉しく思います。

しかし、本当に好きな何かを本気で紹介しようとすると、私はどうにも怪しいラブレターのようになってしまうみたいですね。。愛ゆえに。。(*_*)



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