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お風呂場のアリエル

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 みなさん、アリエルをご存知だろうか。私が紹介するまでもなく、有名なキャラクターだ。名前でピンとこなくとも、人魚姫をモチーフにしたディズニー映画『リトル・マーメイド』のプリンセス、赤い髪をしたお姫様と言えば、あぁ、と思う人も多いのではなかろうか。

 我が家のお風呂場には、そのアリエルがいる。小さな、5cmほどの人形だ。人魚の人形。

 5年ほど前、まだ自由に海外と往来が出来た頃に、米国出張のお土産として娘達に買ってきたものである。たしか、"real foalt!!"とか書いていたように記憶している。小さな船や魚とセットになった、お風呂に浮かぶその玩具を、娘達は喜んで受け取ってくれた。

 湿度が高いお風呂場に5年も置いていると、色も褪せるし汚れも付く。お世辞にもキレイとは言えなくなってしまった。そして小さいとは言え場所を取る。娘達ももう小学校の高学年になる。本音を言えば、そろそろ片付けたい、と思っている。思っていた。

 先ほどお風呂に入っていると、そんなアリエルをガチャンと床に落としてしまった。「しまった」という声と同時に、「邪魔だな」と言う気持ちが頭をよぎる。もう捨ててもいいんじゃないか。子供達と一緒にお風呂に入ることもなくなったので、彼女達が入浴中どう過ごしているかは知らない。でも、さすがにもう遊んではいまい。

 入浴を終え洗面所に出ると、娘が声をかけてきた。「なんか音がしたけど大丈夫?」

 「大丈夫だよ。でも、アリエルを落としちゃった」「…あのアリエル、もう片付けてもいいかな?」

 「うん、いいよ」さほど間を置くこともなく、いやむしろ即答と言える速さで、娘は応えた。そのとき彼女がどんな顔をしていたのか、ちょうど髪の毛で隠れて私には見えなかったが、きっと何とも思っていないのだろう。こんなことを気にするのは、多分いつまでも子供な親の方だ。

 思えば、私が子供のときにはお風呂場にはウルトラマンがいた。ビニールで出来て、上半身と下半身の境目で2つに分かれるあれ。一度外すと、差し込むのにコツがいるあれ。あのウルトラマンは、いつお風呂場からいなくなったのだろうか。

 先月の中頃だったか、新入社員だった当時から存じている先輩が今春で会社を卒業されると、聞いた。そうか、寂しいな。最近は在宅勤務が多いから、挨拶できるときにしておかないとな。そう思っていたら、すぐにその春はやってきてしまった。今日、出社ついでに一言挨拶をと席に伺ったところ、その人の顔を見た瞬間、自分でも全くの予想外なのだが、泣きそうになってしまった。

 と言うのは強がりで、実際のところはほとんどもう泣いていたので、挨拶に行ったにも関わらず何も喋られずに退散してしまった。退職手続きをしながら「やることがいっぱいで大変だ」と笑うその人に、今までありがとうございました、というのが精一杯で、そのまま逃げるようにその場を後にした。

 とは言え、別れの春は、出会いの季節でもあるらしい。3年前にこんな感傷的な別れの言葉を書いた先輩が、なんの因果かまた会社に帰ってくると聞いた。なるほど、別れがあれば出会いもある、というのはどうやら事実らしい。

 はてさて、出会いや別れはありふれたことだ、という事実を受け入れられる日は私にやって来るのだろうか。別れのたびにこんな思いをするのは嫌だ、と思うと同時に、そんな湿っぽさが自分らしさかもしれない、とも感じる。いずれにせよ、人は簡単には変われない。こんな私を抱えて、また明日から新しい1日を生きていこうと思う。

 我が家のお風呂場には、アリエルがいる。彼女を片付けることができるのは、まだ先になりそうだ。
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