アイリッシュダンスは、上半身を使わずに足だけでタップを踏むことが特徴です。イングランドによる迫害を受けたアイルランド人が、イングランド兵の監視を逃れ、窓の外から見えないようにステップを継承することで生まれた、と言われています。リバーダンスは、一聴すると伝統的アイリッシュですが、実は強烈な変拍子が用いられていることが大きな特徴です。7/8(実際には6/8+8/8で二拍子と四拍子の複合)の足がもつれそうなリズムが、後半盛り上がると同一メロディのまま拍が1つ減り6/8(6/8+6/8で二拍子+三拍子の複合)になります。動画を見ながら拍をとろうとすると、拍子の複雑さに気づくのではないでしょうか。これを違和感のないカッコいいステージとして成り立たせているビル・ウィーラン、そしてダンサー達は本当に素晴らしい。
アイリッシュはアメリカに渡った
ところで、アイルランドとスコットランドは地理的にも近く音楽も似ていますね。18世紀ごろには、アイルランド人やスコットランド人が大西洋を渡ってアメリカ大陸の東海岸にたどり着きさらに内陸部を目指すものの、「あるもの」に阻まれその付近に住み着きます。ではその「あるのもと」とはいったいなんでしょうか?チャラララチャララララ~♪(世界ふ〇ぎ発見風)
正解は、アパラチア山脈です。なので、アパラチアの音楽にはアイリッシュやスコティッシュの香りがするんですね。いわゆるブルーグラスと呼ばれるジャンルがこのスコッチアイリッシュとして有名です。ブルーグラスって?という方も、「こんな感じの曲」と聞けば、「あぁ、こんな感じのやつね」となんとなくジャンルが分かるのではないでしょうか。思わず心が軽くなる軽妙な音楽です。
Foggy Mountain Breakdown (Earl Scruggs And Friends)
アパラチア民謡を集めたギター曲、アパラチアの夢
さて、アパラチアのギター曲と言えば何か思い出しませんか?そうです、Appalachian Dreams (アパラチアの夢)ですね(?)。アパラチアの夢は、Sharon Isbin(シャロン・イズビン)の委嘱によりJohn Duarte(ジョン・デュアルテ)がアパラチア地方を巡り収集した民謡に基づき作成したギターソロ組曲。デュアルテと言えばセゴビアに献呈されたイギリス組曲が代表作ですけれども、私はこのアパラチアの夢も大好きです。というわけで、私の演奏の紹介です。
Appalachian Dreams (Suite for solo guitar)
I.Fantasiaにでてくる Katy Cruel, Shady Grove, The Foggy, Foggy Dewは、いずれもアメリカ民謡でありながら元々はスコットランド民謡、そしてイギリス民謡やアイルランド民謡などとしても存在するという、少し不思議な曲です。II. Black is the Color of My True Love's Hair(黒髪の乙女)も、アパラチア民謡ですが元々スコットランドの曲。ロンドン育ちの友人に尋ねたところ、この曲のことはよく知っていると教えてくれました。スコッチ、アイリッシュ、ケルト。アパラチア。それを日本で楽しむ。地理的な繋がりが音楽を通して見えてくるのは、何とも楽しいですね。Black is the Color of My True Love's Hair は、Celtic Womanによる素晴らしい演奏もあります。年月を経て受け継がれる音楽は、どのような形で奏でられても美しいものです。
Black is the Colour (Celtic Woman)
スコッチはスペインにも引き継がれる
話は今度はヨーロッパ大陸に移り、スパニッシュ・ケルトの紹介。大学でリバーダンスを通じケルト音楽の魅力に惹かれた私は、「ケルト」と名のつくものを色々聞きました。当時はYou Tubeなんかもなかったので、ツタヤでなけなしのバイト代でレンタルしたものです。その時出会ったのが、Luar Na Lubre(ルアルナルブレ)、スペインなんだけどケルトと言うグループです。
スペインの伝統音楽としてはフラメンコがあまりにも有名です。しかしフラメンコはスペイン南部の音楽で、インドから西に移動してきたいわゆるジプシー民族とスペイン南部の土着の民族の結びつきによって生まれたという説もあります。これに対し、スパニッシュケルトが伝わるのは北西部のガリシア州。文献が残っていないため明確な歴史を辿るのは難しいものの、ケルト民族が海を渡りスペイン北西部に辿り着いたという説が有力なようで、ルアルナルブレもその流れを汲んでいます。彼らの音楽は、なんか説明するのが無粋なように、まっすぐ胸に響きます。ここでは歌ありを紹介しますが、インスト曲もオススメですので、よければ探してみてください。
La molinera (Luar Na Lubre)
ガリシアといえばコンポステラ
スペイン ガリシアを代表する世界遺産と言えば、コンポステラ大聖堂。バチカン/ エルサレムと並び世界三大聖地の1つに数えられます。コンポステラに向かう道程は巡礼街道と呼ばれ、フランスから徒歩で向かう人も多いそうです。今はコロナの影響で少ないでしょうけれど、人流制限が解除されればまた賑わうことでしょう。
スペイン出身の著名な作曲家・ピアノ奏者としてFederico Mompou(フェデリコ・モンポウ)が挙げられます。そしてモンポウがセゴビアに献呈したギター曲が、その名に聖地を掲げる「コンポステラ組曲」。モンポウの母方の家系は鐘職人として有名で、彼自身も幼少期から鐘の音に囲まれて育った、と語られています(※)。コンポステラ組曲には、そんな原点を感じる響きが感じられます。そして何より、終曲となる第6番Muineira(ムニェイラ)。ガリシアのダンス音楽の名を冠するこの楽曲は、6/8拍子のリズミカルな舞曲となっています。どうでしょう、この曲を聞いて、リバーダンスやアパラチアの夢
第5番Finaleと共通するリズム感や高揚感を感じる人も多いのではないでしょうか。
Suite Compostelana by Mompou | performed by Frank Wallace(ムニェイラは
14分24秒から)
個人的には大萩康司さんがブルー(BLEU)に収録されているコンポステラ組曲が大好きです。
ビクターのページで試聴できるので、できれば出だしのリズムだけでも味わってみてください。本当は、モンポウの内向的な響きを1番から通して聞く方が、ムニェイラが味わい深くなるので1番のお勧めです。
ちなみに、モンポウによるコンポステラ組曲の作曲は1962年、セゴビア版出版が1964年。デュアルテによるイギリス組曲は1963年作曲。モンポウとデュアルテがお互いのセゴビア献呈ギター曲を意識したのか気になる時系列です。それらと比較し、デュアルテのアパラチアの夢は年代が大きく遅れ1996年作曲。デュアルテは果たしてムニェイラを参照したのでしょうか。
※フェデリコ・モンポウ : 原点回帰・プリミティズム・鐘の音他 | Kazu Suwa | クラシックギター
https://www.kazu-classicalguitar.co.uk/ja/essays/federico-mompou/recomencament-primitivism-bell-soundsあとがき
古くはケルトで紡がれだした音楽が、形を変えながら世界に根付く。各地の特色が存在するのはもちろんとして、同じルーツを持つということも確かに感じることができます。そんなことを感じながらギターを奏でるのもいいものですね。
文章構成上記載を省略しましたが、モダンケルトとしては「The Corrs」なんかも好きです。兄+美人3姉妹の4人による人気グループですので、本稿の音楽に興味を持たれた方はこちらもぜひきいてみてください。
Runaway(The Corrs)
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