2019/10/24
自分でコンクールを主催するなら、本選課題曲は何にしますか
先日設置した
質問箱に、表題の質問をいただきました。課題曲は何にするか、と言う一見シンプルな質問は、自分が演奏に期待すること、コンクール挑戦を通じて得たいことを整理する有り難い機会となりました。
まずもって課題曲は何のために存在する?
世の中には自由曲だけで、つまり自分で選択した曲だけで参加できるコンクールも数多くあります。そんな中、主催者側が敢えて課題曲を設定する理由は何が在るのでしょうか。私は応募する側の人間ですが、自分なりに挙げるならば、、
①応募人数/本選出場者人数を絞り込むため、あるいはコンクールの質を担保するため
②同じ曲を用いて公平に審査するため
③ぜひともその曲に取り組んで欲しいため
このうち①は、事前審査の目的に限られるため、興味深い話題ではあるもののここでは省きます(と言うか、質問も『本選』課題曲、と指定してくださってますね)。②は「課題曲を設定する」こと自体でその目的が半ば達せられます。後は、公平に評価するために何を重要視するか、により曲の選択方向性が決まると考えます。速弾きか、和音のバランスか、複数の旋律線を理解しているか、などでしょうか。
しかし、実はですね、このあたりは実はどの曲を弾いても審査員は「判断可能」なのではないか、と個人的には考えています。ある程度フォームや音色、安定感などで、その人にどの程度の能力や余力があるかも実は見透かされているのではないか。と言うかむしろ、そのような方に審査していただきたいものだ、と応募者として期待しますし、そう言う意気込みで舞台にはのぞみたいとも思っています。
おそらくは、課題曲を設定する理由やメリットは主に①②なんでしょう。けれども、いったん「課題曲を設定する」ことに決めれば(あるいは決まれば)、選曲の主題は③に移るものではないでしょうか。と言う訳で、本稿では③の観点から話を進めます。すなわち、「その曲に取り組む」ことに意味を持たせる、と言うことですね。と、長くなってきたので、ここで結論を先取りし紹介します。
私あしゃおが選ぶ課題曲は!ババーン
・3つのノクターン Trois Nocturnes Op.4よりNo.1(J.K.メルツ)
動画は3つのノクターンすべての演奏です。もっと動画があがっているかと思いましたが、ほとんどないですね。。みなさん、今が演奏とアップのチャンスですよ(?)。私もそのうち改めて挑戦しよう。
選曲理由
・技術的に難しすぎず、
・音楽的に興味深く、
・演奏すればするほど新たな気付きがある
さらにあえてもう一点加えるならば、
・この機会だからこそ演奏される
というところです。
この選曲理由は、以前に「初心者にお勧めの曲」で記載した内容と本質は同じです。すなわち、一見技術的に簡単な曲です。ここにこそ、クラシックギターが上手になるためのエッセンスがつまっている、と。少し重複点もありますが、改めて紹介させていただきます。
ギター初心者にお勧めの、譜読み・運指が難しくない曲の紹介です。初心者の方にお勧めできる「簡単な曲」であると同時に、最近難曲ばかり弾いていて伸び悩まれている中級の方にこそお勧めしたい曲となっています。
いま弾ける曲を十全に表現することが、上達の秘訣
「できないことをできるようになる」には、多くの労力と時間がかかります。と言うか、できないことはできないからできないんです。できることを少しずつ積み重ねることで、人は上達できます。新たな曲や技術への挑戦は、この当たり前のことをぼかしてしまうことが多い。難曲への挑戦、新しい技術習得の試みはどんどんやればいい。新曲の譜読みはどんどんすべきです。ただし、それは最初は弾けなくていいんです。そのときに、その新曲ばかりにこだわりすぎず、演奏可能な曲に戻ってくること。これが大切です。
新しい曲を譜読みする
→弾けない箇所を発見する
→その箇所に必要なエチュードや部分練習を重ねる
並行して、いま弾ける曲をもっと歌う練習を、表現の自由を獲得する練習をする
→弾けていなかった新曲に再挑戦する。弾けるようになっていたらラッキー!
並行して新曲を譜読みする
→弾けない箇所を発見する
→・・・
こう言うサイクルを回しながら、できる事を少しずつ拡げていく、増やしていく。積み重ねていく。これが、できなかったことをできるようにするための、結果としての最短経路ではないかと思います。基本技術の先にこそ音楽表現があることを認識する。そして、何度も簡単な曲、今できるフレーズに立ち返り、上達する。こんな意識付が大切ではないでしょうか。
課題曲を新しいスルメ曲との出会いに・・
ここまで挙げた内容に該当する曲はきっと何曲もあるのでしょう。でも、これだけ偉そうなことを言いながら、私は多くの曲を研究しているわけではないので、普通にラグリマ(タレガ)や夢(ソル、セゴビアのエチュードNo.6)などのような、超有名曲が思い浮かぶんですよね滝汗 と言うだけでは面白味にかけるので、少しだけマイナーな曲で、この機会に演奏される方が増えてくれれば、と言う意図も含め、今回のメルツ選曲と相成りました(めっちゃ背伸びしました。。)。うーん、この呼びかけは、完全にブーメランとして自分に帰ってきますね。実のところ、演奏時間の限られる社会人としては、課題曲で新たなものを提示されると、期日までに形にするのは正直困難で、これまでは自由曲のみで応募できるものに逃げていたのですよね。。この考察を通じて、私もコンクールの課題曲にもっと真摯に向き合おう、積極的に学習していこう、と思いを新たにしました。
実は「弾いてはいけない曲」で縛ってもよいのかも
この記事を書いていて思ったことですが、課題曲は通常、「演奏する曲」を規定します。当然すぎて誰も指摘しないことですけれども。複数の課題曲からの選択を許可する場合もありますね。
ここでは思い切って、「弾いてはならない曲」を決めてみるのも面白いかもしれませんよ。
・長さ2分以内
・臨時記号は3回まで(繰り返しや同じフレーズは1回と数える)
・ラスゲアード禁止
・12f以上の高音禁止
・編曲物禁止 とか
…うん…そうか、駄目か(笑)。思いついたときはいいかと思ったんだけどなぁ。でもまぁ、こう言う柔軟な(?)が何かに繋がるときがあればいいですね。
あとがき
コンクールは受けるだけ、参加するだけで、「自分なら課題曲に何を選ぶか」など、考えたこともありませんでした。しかし、この自分ではおおよそ思い浮かぶわけもない恐れ多いこの問いは、私にギターに関して考える機会を与えてくださいました。改めて、質問者の方に感謝いたします。本稿が、みなさんが新たなスルメ曲と出会うきっかけとなることを願います。また、
質問箱にご意見/ご依頼をお寄せいただき、新たな気づきのきっかけとさせていただければ幸いです。
クラシックギター愛好家向けのコンクールをまとめました。コンクールはプロを志す方にとって登竜門であるだけでなく、愛好家の方にとっても有効活用できるものであると思います。ここでは、いわゆる「職業的ギタリスト」を目的としない方でも挑戦しやすい、課題曲の負荷が量的/質的に少ないコンクールを中心に紹介をしています。...
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