2020/05/23
コンクールを勧める理由
2019年3月9日放送の「題名のない音楽会」では、「世界の音楽コンクールを知る休日」とのタイトルで主にピアノのコンクールにまつわる話が取り上げられていました。いわく、音楽コンクールの目的は「若手音楽家が羽ばたくきっかけを作る」ことであり、「賞金よりも、副賞でついてくる各地でのコンサート開催権の方が大事」と言った内容でした。
音楽ではありませんが、コンクールと言って思い浮かぶのは漫才コンクールのM-1グランプリ。M-1開始当時に出場資格が結成10年までの若手に限定されていたのは、島田紳助が「芸人を辞めるきっかけをつくる」という目的からであった、というのは有名な話です。
夢を応援する場であると同時に、夢を諦める場でもある、というのはコンクールの非常に重要な二面性を表していますね。
翻って自分のようなプロを目指す立場でないものにとっては、「夢を諦めない」ための場を与えていただけているのではないか、とも感じています。どのようなことも、辞めてしまうのは簡単なもので、あっさりしたものです。気が付けば止めていることのなんと多いことか。
そんな中、趣味を諦めない、続けられる、そういうための場としてコンクールをうまく活用できれば、と思います。もちろんコンクール以外でも、趣味を続けられるための場所や仲間が見つかれば、それは仕合せなことですね。この記事では、コンクールに参加することにどのような意義が考えられるかを、愛好家目線で語りたいと思います。
クラシックギター愛好家向けのコンクールをまとめました。コンクールはプロを志す方にとって登竜門であるだけでなく、愛好家の方にとっても有効活用できるものであると思います。ここでは、いわゆる「職業的ギタリスト」を目的としない方でも挑戦しやすい、課題曲の負荷が量的/質的に少ないコンクールを中心に紹介をしています。...
マイルストーンを設定することでモチベーションを持ってギターに取り組める
「音楽に完成形はない」 福田進一先生が語ってらした言葉です。絵画には完成がある。小説は、推敲し最終形を固めなければならない。それに対し、音楽は常にその時限りの音楽を愛でることができる。これは音楽家に許された特権であると同時に、自分と作品との関係性をどう保ち続けるか、あるいはどう終了させるかに頭を悩まさなければなりません。
自分が弾きたいと思った曲を、ずっと弾き続けられると一番ですけれど、現実問題としてはなかなか難しいですよね。そんなとき、人前演奏をマイルストーンにするというのは一つの方法です。例えばクラブやギター教室の発表会などはいいですね。そして、ここで言及していますコンクール。受動的に日付を区切ることは、曲の完成度を高めるだけでなく、その発表をもって特定の曲に対する思いに意図して区切りをつける良い機会となります。
誤解の無いように述べますと、一度発表会に出したらそれで終了、というわけではありません。先にも述べた通り、常に変化し続けるその様を愛することができる、というのは音楽家の特権です。ただ、だらだらと一つの曲に固執し続けるのではなく、節目を作り付き合い方を変えていくのに、コンクールはよい機会となるでしょう。動画を撮影しアップロードする、というのも一つの方法ですね。
自分の演奏を深く突き詰めるきっかけになる
プロの演奏家は、誰かに曲を聞いてもらうことで収入を得ます。そのためには、嫌でも「聞いてもらうこと」を意識しなければなりません。それに対し愛好家は、「他者」を想定しなくても演奏することができます。正解とか不正解とか、理論的な正しさとか歴史とか、そんなものを気にせず弾きたいように弾くことができる。これは大きなメリットであり、同時に大きなデメリットでもあります。
自分はなぜこのように演奏するのか。もっと楽な運指はないか。ミスを少なくするにはどのようなアプローチがよいか。人に聞いてもらうことを前提とすると、結果として自分の演奏も深く掘り下げることができるようになり、より楽しむことができるようになります。第三者が聞いたらどう思われるだろうか。この視点を獲得することは、あなたの演奏を一段高いレベルに押し上げてくれるでしょう。
他者に評価してもらうことを目標とする必要はありません。どのように演奏しようが、それはあなたの自由です。しかし、「どう思われようが関係ない」と、「どう思われるか考えたうえで、それでも私はこう演奏する」の間には、大きな隔たりがあります。この隔絶を乗り越えた先にこそ、あなたらしい音楽が存在するのではないでしょうか。
他者の演奏を評価しようと聞くことで、自分の演奏も客観的に捉えることができるようになる
コンクールを薦めてはいるものの、本質的に音楽には優劣も正誤もありません。それでも、多くの人が良いという演奏には、やはり何らかの理由があるものです。なぜあの人の演奏は評価されるのか。どうしてこの人の演奏が胸を打つのか。あの人の豊かな音はどうやって生まれるのか。そういった問を考えながら演奏を聞く。それを繰り返すことで、自分の演奏がどう思われるかに対する感度もきっと上がっていくことでしょう。ただその時の音楽を楽しむ心と、「なぜ」「どうやって」を考える頭とを同居させる。そして、自らもその対象とするように心がける。そうやって、客観的な観点を鍛えることが大切です。
もちろん、こういった耳を鍛えるためには、プロの演奏に触れることが何よりもお勧めです。ただし、コンクールの場合は、多くの方の「優れた点」「評価できない点」を比較することができるところが、(多くの機会では一人の奏者が演奏する)プロの演奏会と異なる点と言えます。
課題曲を練習することで、世界が広がる
これに関しては、下記記事で詳しく述べていますのでご参照いただければと思います。普段自分が選ばないであろう曲に取り組むきっかけを得られる。これは、きっとあなたの世界を広げてくれることでしょう。(とか偉そうにいいながら、私はもっぱら課題曲の無いコンクールに出場していますけれど・・。)
自分でコンクールを主催するなら、本選課題曲は何にしますか同じ志を持った人の演奏を聴くことで刺激が得られる。仲間が増える。
最後にもってきましたけれど、実はこれが最大の理由ではないでしょうか。「志」というと大仰かもしれない。けれど、クラシックギターが好きだ、という思いを持った人と集まるのに、これほど良い機会はないでしょう。この人の演奏好きだなぁ。こんな曲、どこで調べたんですか。こんな何気ない会話を楽しむのは、とても素敵な経験です。私はきっと、コンクールへの出場を引退するときがきても、観戦はできるだけ続けるのではないでしょうか。同じ趣味の仲間と交わる機会として、コンクールは本当におススメできます。ちなみに私は、なんなら控室でもしゃべりかけたいくらいですけれど、それは人によっては嫌がられるかもしれませんのでご注意ください。。
おじさんギタリストが伝えたい、ギターを継続するための7つのポイントあとがき
色々書きましたけれど、まぁ何が言いたいかっていうと、みんなでコンクールに参加しようぜ!ということです。そうすることで多くの人と触れ合うことができて、クラシックギターがもっともっと広まっていってくれたら、私が嬉しい!こんな素敵な楽器、こんな素晴らしい楽曲たち。もっと大きなうねりとなって、多くの人の愛されていけば、と願っています。
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