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CDレビュー MEDUSA(猪居亜美) 新時代を切り開く曲に注目

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※2020/6/6、亜美さんのYou TubeチャネルにMEDUSAが公開されましたのでリンクを追加しました。この曲、この演奏やっぱめちゃくちゃカッコいいなぁ。もっとメジャーになってほしい※

2019年7月発売、猪居亜美さんの3枚目にしてメジャーデビューアルバムとなった、MEDUSAのレビューをお送りします。
テクニックは申し分なし。曲目が少し偏ってしまったのは、客層の一般化を狙ったメジャーならではと言ったところでしょうか。亜美さんのファンはもちろんのこと、これまで日本であまり馴染みがない曲を新たに開拓したい方、テクニカルな演奏に酔いしれたい方に特にお勧めの1枚に仕上がっています。

【収録曲(収録順、全13曲)】
●T.フェロー「メドゥーサ」 
Thomas Fellow「Medusa」
●A.ヨーク「ムーンタン」
Andrew York「Moontan」
●M.タディッチ「ウォーク・ダンス」
Miroslav Tadic「Walk Dance」
●R.ディアンス「タンゴ・アン・スカイ」
Roland Dyens「Tango En Skai」
●R.ディアンス「ヴァルス・アン・スカイ」
Roland Dyens「Valse En Skai」
●レーントコ・ディルクス「ラマラー」
Reentko Dirks「Ramallah」
●D.スカルラッティ「ソナタK53」
Domenico Scarlatti「Sonata K53」
●C.ドメニコーニ「アナトリア民謡による変奏曲」 
Carlo Domeniconi「Variations On An Anatolian Folk Song Op.15」
●A.バリオス「蜜蜂」
Agustin Barrios Mangore「Las Abejas」

L.ブローウェル「オリシャたちの儀式(全2楽章)」
Leo Brouwer「Rito De Los Orishas」
●第1番:冒頭~呪文
I.Exordium~Conjuro
●第2番:黒き女神たちの踊り
II.Danza De Las Diosas Negras
●H.ヴィラ=ロボス「エチュード第12番~「12のエチュード」より」
Heitor Villa Lobos「Etude No.12~Douze Etudes」
●F.ショパン「幻想即興曲」
Frederic Chopin「Fantasie-Impromptu」


まず注目は、タイトル曲のMEDUSA


クラシックギターの新しい曲を開拓すると言う亜美さんの思いが込められた、T.フェローのメドゥーサ。めちゃくちゃかっこいいですね。ウォーグダンス(M.タディッチ)、ラマラー(R.ディルクス)と言った曲目も、亜美さんのメジャーデビューへの意気込みを感じる、新時代の曲です。いずれも日本初録音とのことです。私が20年前に村治佳織さんの名盤「カヴァティーナ」で、サンバーストや鉢雀を聞いたときのような感動や新たな時代の幕開けに対するワクワク感を、今の若い人達も受け取るのではないでしょうか。



このMEDUSA、楽譜を持たず耳で聞いた限りだと拍がとてもややこしいです。3/4(9/4?)と4/4(8/4?)などの融合でしょうか。こう言う曲を上手に料理するのは、後述するように亜美さんの優れた特徴だと思います。しかしこの手の曲は、十分なスキルを持った人が演奏するから曲として成立する部分が多少なりともあり、「この曲を演奏したい」との思いからクラシックギターをスタートして練習を重ねるとなると大変な苦労を伴いそうです。

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ワルツアンスカイ ポピュラー化の起爆剤となる、か…?


今回収録曲目を聞いたときに期待したのが、ディアンスの隠れ気味な名曲ワルツアンスカイが広く世に知れ渡るきっかけになるかな、と言うことです。亜美さんは今回タンゴアンスカイと一緒に収録されていて、アンスカイ仲間でこれから広まって言ってくれれば、と思います。

ただ、正直に言うとこちらは少し物足りない。亜美さんの技巧と表現力ならもっとはっちゃけられるとはずなんですけれど、どこかセーブがかかったように感じます。「ワルツ」と言うタイトルを大事に曲作りをされたのか、メデューサやラマラーとの兼ね合いでCD全体のバランスから控えめな表現をされたのか。それとも、上記曲と私が無意識に比較してしまっているだけなのか。実際のところは私にはわかりませんけれど、この曲はワルツっぽいリズムに非和声音が織り込まれていて疾走感もある、と言うアンバランスさが好きなので、もっとやっちゃってほしかったです。

例えば同じくディアンス編曲の「フェリシダージ(ジョビン)」なんかも、別にボサノヴァっぽく弾くよりもなんかカッコいいギター曲!って弾いちゃえばいいと思うんですよ。亜美さんのワルツアンスカイもそのアプローチで聞きたかったなぁ。タイトルが「アンスカイ: なめし革」となっている通り、ワルツっぽいだけの偽物なんだから。

音数の多い曲からメロディを取り出すセンスが秀逸


亜美さんは、音数の多い曲やリズムの複雑な曲をキャッチーに焼き直すのが本当に得意ですよね。本作ではその技術に特に磨きがかかっています。冒頭で上げたメデューサの複雑なリズムや、蜜蜂のような音数勝負の曲もちゃんと必要なメロディがすっと頭の中に響いてくる。これって凄いことなんですよね。アナトリア民謡のFinaleなんて、これなかなか曲にならないんですよ?3/8、5/8ごちゃまぜの複雑なリズムに、オクターブ半音違いの衝突する和音。譜読みしても格好よくならず途方にくれる曲なんですけど、亜美さんが弾くと単なる格好いい曲に聞こえる。この「単なる」と言わせてしまうところが、亜美さんの優れた技術と音楽センスなんだと感じます。

こう言ったイメージ?なのか発想?なのか、曲作り全般は見習いたいですけど、どうやっているのかなかなかわからないですね。音数が多い曲って全部頑張って出したくなったり、あるいはメロディ以外を小さくしすぎてしっかり聞かせられなかったりしますが、亜美さんはそこが本当にうまい。複数の旋律を立体的に組み上げるのとはまた違って、平面の中に輪郭が浮かび上がるような、不思議な魅力です。

イメージを具現化する力は、ブローウェルでも遺憾なく発揮された


オリシャたちの儀式(L.ブローウェル)でも、このイメージ化の才能が完璧に機能しています。こちらはMEDUSAや蜜蜂と違って必ずしも音の多いものでありません。どちらかと言うと残響や空間、休符を使う曲です。しかし、これが最高に痺れる。1楽章終わりからの、2楽章冒頭なんて鳥肌ものですね。亜美さんにブローウェル、合ってるなぁ。

ショパンが少し物足りないのは、相性か成熟度か…


即興幻想曲は、上記良さが発揮しきれなかったもかも。。垂石雅俊さんの編曲も、亜美さんの演奏もこれも素晴らしい。テクニックも十分だし、トレモロの入れ方とかとてもよい。トレモロって全曲や変奏の一部ではなく、曲途中に採用すると無理やり感が出たり、テクニックをひけらかしてる感じになったりしがちなんですけれど、それがない。素敵ですよね。

けれども、今回の高レベルな他の曲達の中に入れたときに、魅力が1段劣る。それはなぜだろう、なにが他の曲と違うんだろう、と考えていたのですけれど、その1つが「解釈の自由度」や「捨てる音の有無」なのかもしれません。

亜美さんが楽譜と向きあい、イメージを磨き上げたであろう他のギター曲と比較すると、ショパンはピアノの原曲がある。結局亜美さんも、冒頭などで捨て音を作らず旋律をすべて歌おうとしたような気がします。その結果、亜美さんの良いところが活かせきれない部分があったのかもしれません。あるいはもしかしたら、単に難曲すぎてレコーディングまでに技術的、表現的に煮詰まり切らなかったか。というものの、これはあくまで私のちょっとした引っかかりと言う程度の感想。有名ピアノ曲をここまでギターで聞かせるテクニックと編曲には、単純に脱帽です。

最後に、ジャケ写が最高に格好いい!


音楽家としての亜美さんにこういう事を言うのは失礼かもしれませんが、今回のCDはジャケットが過去最高に格好いい!一番です、最高です!(笑) 特に裏ジャケでギターのネックを持ってるカットがいい、なんならスマホの待受にしたいくらい。


俺もこんなカッコいい写真をプロフィール画像にしたいわー。なんならこの亜美さんの写真を私のプロフィールにしてしまいたいくらいだ。最近はダウンロード販売とかサブスクとか流行ってるけど、この写真のためにCDかってもいいんじゃない? 私は感動して開封して聞く前から、買ってよかったと思った(笑)。





あとがき
猪居亜美さんの3rdアルバムにして、メジャーレーベルから初リリースとなるMEDUSAのレビューを記入しました。なんか思った感想を素直に書く中で「もう少し」みたいなこと書いてますけど、あえて言うなら、とか、私の嗜好に対して、の話ですからね。。後は、「明日亜美さんがまかり間違って私のレッスン受けに来ても、手ぶらでは帰らさない」と言う、私の気概が少し出てしまっているだけです、スミマセン。だって、聴衆として「いいなーイイナー」って言ってるだけじゃなく、奏者としての成長に繋げたいんだもん。


日本初録音の3曲を含めたアグレッシヴな選曲に、それらの曲達に負けないアグレッシヴな演奏。本CDは、若い世代の台頭と、まだクラシックギターを知らないひとたちへのポピュラー化が進むきっかけになるのではないでしょうか。また、そうなることを期待して、本稿を閉じさせていただきます。


猪居亜美さん 7/3 メジャーデビュー決定!!
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