fc2ブログ
                        

Sidewalk Talk(本多孝好) 

当サイトはアフィリエイト広告を利用しており、リンクに商品プロモーションを含む場合があります

スポンサーリンク



※2012/8/19の記事の再投稿です。最近(最近なのかな…?)『香水』(瑛人)が流行っているようですね。この曲を聞いていて、本多孝好さんの表題作を思い出したので紹介します。※

突然ですが、問題です。人間の五感の中で一番記憶に直結しているのは何かご存じですか?私はこの答えを、本多孝好さんの小説の中で知りました。今日はその小説の話もしたいと思いますので、少しネタばれを含みますのでご注意ください。

別にミステリーではありませんので、このネタを先に知っていたとしても物語の魅力は何ら失われないと思います。
この話が載っているのは本多孝好さんの「Sidewalk Talk」と言う短編小説で、祥伝社の「I LOVE YOU」と言うアンソロジーに収録されています。

この物語は、五年間続いた結婚生活に終止符を打とうとしている夫婦の話です。夫婦生活最後の晩餐が、学生時代の出会いやこれまでの出来事に関する主人公(男性)の回想を交えながら進んでいきます。そして、食事も終わりこれで本当に最後と言う時に、突然彼を激情が襲います。圧倒的な何かが体を通り抜け、眩暈すら感じたのは、・・彼女がつけてきた香水のせいでした。そして・・。

と言うわけで、冒頭の問題の正解は「匂い」です。嗅覚を司るのは大脳の旧皮質で、その両側にあるのが海馬と言って記憶を司る部分。だから嗅覚は五感の中で一番記憶に直結しているらしいです。ちなみに、この記事を書くにあたって少し調べてみると、匂いは脳の原始的な部位に繋がっているため、記憶だけでなく感情にも影響するらしいです。

私も、実際にこのような経験をしたことがあります。電車に乗って座っていたときに、昔好きだった女の子がつけていた香水の匂いがしてきて、びくっとして思わず振り返ってしまいました。匂い一発で何か昔にがつーんと引き戻される感じ。主人公の言葉を借りるなら「圧倒的な何かが僕の体を通り抜ける」感覚。過去に自分がそのような経験をしていたからこそ、この物語がとても好きになったのかも知れません。

本多孝好さんの魅力の一つは透明感だと私は思っています。その透明感の中で、「匂い」と言うものを媒体にして、こみ上げて来る記憶や感情が効果的に描がかれています。この雰囲気・感覚が大好きでこの作品は何度も読み返しています。


さて、なぜ今日この話を突然書いたかといいますと、、お盆休みと言うことで昨日クラブの仲間と集まって久しぶりに話をしていて、この話になったのがきっかけです。そして、私の目指す音楽の行き着きたいところは、ここで言う「匂い」のような音楽なので、ブログに書いたわけです。

「1音で世界を変える」、それが究極の目標です。理屈抜きに問答無用で心に突き刺さる、匂いのような音楽。聞いていて、ふと昔どこかで見た風景を呼び戻す、とか、なぜか涙が出そうになる、とかそう言う空間を生み出したいのです。伝わりにくいかも知れないけれど、匂いで感情を呼び起こされたことのある人だけでも通じてくれたら嬉しいです。


さぁ、爪を磨きますか・・っ!

2012/8/19 初投稿


本アンソロジーは、本多孝好のSidewalk Talkだけでなく、伊坂幸太郎の透明ポーラーベアーなど秀作が収録されていて、お勧めです。
関連記事
                        

コメント

No title

昔から鼻が悪くて、匂いとか全く記憶にございません。
感受性の低さや記憶力の欠如はそっからきてるんですかね

Re: No title

>ぴの人さん

私も今回記事を書くにあたって調べたときに初めて知りましたが、匂いそのものを記憶するのは難しいらしいです。匂いが引き金となって記憶や感情を呼び起こされることはありますが、逆に匂いを思い出すにはそれなりの訓練が必要だとか・・(なので、ブレンダーのように匂いの記憶ができるとそれ自体が特殊な職業になるのですね)。

ですので、匂いが記憶にないのは一般的なことだと思いますよ。

※ただし、匂いを司る脳部位と情動を司る脳部位は近くにあるとのことなので、仮に鼻が悪いのが「鼻のセンサー」の問題ではなく「脳」の問題であったとすると、それに付随し感受性も低くなると言う推論は成り立ちますね。。

まあ、感受性(感情)ってのはそもそも言語で説明しにくい脳の働きだと思うので、それを高いとか低いとか定性的に話しても仕方ないとも思いますけどね。

No title

あしゃおさん、お久しぶりです。

>「1音で世界を変える」、それが究極の目標です。
素晴らしい目標ですね。
クラシックギターでそれを実現させるのは滅多にできることではありませんが、ぜひ頑張ってください!

ちなみに僕自身の記憶では、「1音で世界を変えられた」ことが一度だけあります。
内輪の話になってしまいますが、僕が二回生のときの部活の夏合宿のリハーサルで、クラシックバンドの演奏中(ブラジル風バッハ)に、
全員が休符で静まり返った中、S先輩(当時リーダー)が放ったたった1音が、僕にとって「1音で世界を変える」ものでした。合宿中の眠気も吹っ飛んだのを覚えています。
リハーサル直後に僕の同回生Tに「Sさんの単音で眠気が飛んだ」と伝えたら、Tからも「うん、世界が変わるね……」と返ってきました。
でもその単音が何故そこまで僕(達)にとって衝撃的だったのかが未だにわかりません。

とりとめがなくなってしまいましたが、「1音で世界を変える」という目標が素晴らしいと思ったので書かせていただきました。
目標実現を祈ってます!

Re: No title

>ざきさん
ご無沙汰してます。興味深いコメントをありがとう。

何がそこまで衝撃的だったのか、もしわかればそこに近づくことができるので気になるところだね。また、もしそれが言語化して手順化してしまえると、そこにある衝撃は薄まってしまう気もするので難しいところです。

とにかく、そう言う世界が確かにあると言うだけで、頑張る甲斐がありますよ!またいつか演奏聞いてもらえる日を楽しみに、精進するわ!
非公開コメント