闘争逃走本能とは
外界からの刺激によりストレスを感じると、人間は「闘争-逃走反応(Fight-Flight Response)」というと呼ばれる反応を示します。これは、人間がまだ自然界に生きていたころからの名残で、動物が天敵と出会ったとき、身を守るため戦う、あるいは逃げるという行動を取りやすくするための反応と考えるすると理解しやすいものです。
例えば、演奏活動に影響するものを取り上げると、
呼吸:酸素を取り入れるために速まる
心拍:栄養と酸素を含んだ血液を全身に送り出すため、早くなる
末梢血管:闘って傷を負った場合に備え収縮し、手足が冷たくなる
もちろん、ストレスによる反応は悪いことだけではありません。このような反応を起こす大元は、副腎皮質から分泌されるアドレナリンです。アドレナリンは、ドーパミンなど他の脳内物質分泌のきっかけにもなり、注意力や集中力が増す、と言ったことが挙げられます。しかし、どうしても悪い方に目が行きがちですよね。このストレスによる反応には、困った悪循環があります。
ストレス反応の悪循環
脅威を認識する
⇒闘争-逃走反応が起こる
⇒身体の緊張反応が起こる
⇒緊張反応を新たな脅威と認識する
⇒闘争-逃走反応が起こる
⇒身体の緊張反応が起こる
⇒緊張反応を新たな脅威と認識する
⇒・・・
さらに問題を大きくするのは、脳が外的脅威と内的脅威を区別しないという性質です。このため、「こないだの演奏会では見事に失敗したなぁ・・」と言った悪い記憶や「今日失敗したらどうしよう・・」という将来への不安も、闘争-逃走反応が起こる要因の一つととなりえるのです。
まずは、「緊張=悪いこと」の認識を改める
舞台での緊張に対処する第一歩は、ストレス反応が起こることを悪いとは捉えず、起こって当然と認知すること、そして、ストレス反応の悪循環を断ち切ることです。そのうえで、緊張を和らげるためのアプローチと、緊張した状態でパフォーマンスを出す準備を適宜織り交ぜる、ということですね。
緊張を和らげる直接的な方法には、例えば「筋弛緩法」と呼ばれるものがあります。わざと筋肉を収縮させ、そのあと弛緩させることで緊張を和らげる、というものです。これは職場ストレスなどへのメンタルヘルス対策としても有効なものですので、興味がある方はぜひ調べてみてください。
緊張に備える練習方法
緊張した状態でのパフォーマンスを上げる練習として一例を上げると、本番で演奏したいテンポ設定に対して①速いテンポ ②正しいテンポ ③遅いテンポ それぞれで演奏できるように準備をする、という方法があります。舞台で緊張してしまうと、心拍もあがりテンポも自然と早くなってしまいます。それに対処するには、①速いテンポになっても指がもつれないよう練習をしておく。
ここまではある種普通の練習です。ここから先がさらに重要なのですが、本当は②正しいテンポで弾きたいのですから、敢えて手綱を抑えて遅く弾くよう意識しなければなりません。これが、その練習していないと案外難しいんですよね。指の動き任せて曲を記憶していると、遅く弾こうと思うと逆に難しくなって止まってしまう場合があります。そこで、思っているより③遅いテンポで演奏する練習が効いてくるわけです。
ちなみに、遅い演奏は、「練習のために遅く弾いている」と考えてしまうとつまらなく感じてしまうかもしれません。しかし、「ゆっくりでも曲を成立させる方法」を模索するんだ、と捉えると楽しめます。また、曲の表現の幅も広げることができ、結果として舞台で思わぬアクシデントがあっても柔軟に対応できると思います。「正解の演奏」を1つに規定してしまうと、レールから外れたときのリカバリが大変。テンポやリズムを普段から遊んでおくことが、舞台での安心感に繋がりますよ。
緊張しないための練習でなく、緊張状態でも適切に自分をコントロールするんだ。そのようにスターラインを変更してみましょう。人前での演奏を目標の一つに置いている人は、演奏面でのスキル向上だけでなく、メンタル面での状況分析と改善策を持つことをぜひ検討してみてください。
参考文献:
・
メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト 第4版(大阪商工会議所)
・
自分でできるマインドフルネス(マーク・ウィリアムズ、創元社)
・
もっと音楽が好きになるこころのトレーニング(大場ゆかり、音楽之友社)
PS:こんな偉そうに書くとお前何様やねん感がでますが、私も舞台では普段からは考えられないミスをしてしまいますけどね。。でも、まだマシになってきた方ですよ。
緊張のメカニズムやそれに備える方法、舞台での心得など、労易くリターンの大きいメンタル系の記事をまとめました。 ...
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